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Asteroid “Yukomotizuki”

小惑星“Yukomotizuki”が本になりました。

望月の国内外の理科教育への貢献により、小惑星9109が
“Yukomotizuki”と命名されました[2010年、IAU(国際天文学連合)認定]。小惑星とは、火星と木星のあいだにある太陽系の小天体です。

湯浅年子賞金賞

左から、TYLフランス側ディレクターのMarc Besançon氏 (CEA/Irfu)、望月優子、TYL日本側ディレクターの幅淳二氏(KEK素粒子原子核研究所)

Left to right, Prof. Marc Besançon (French Director, TYL), Yuko Motizuki, Prof. Junji Haba (Japanese Director, TYL)

お茶の水女子大学の室伏きみ子学長から賞状を、TYLフランス側ディレクターのMarc Besançon氏から湯浅博士の肖像が刻まれた記念のメダルを授与いただきました。(2017.2.24)

Research

RIBF宇宙核プロジェクト

研究プロジェクトの大テーマ:『元素の起源』の謎の解明に貢献する

よく知られている『元素の周期表』には、『天然に存在する元素』が83種類あります。このうち炭素より重い元素はすべて、『超新星爆発』とよばれる星の最後の大爆発によって宇宙空間にばらまかれたと考えられています。もっとも重い元素がウラン(ウラン238という核種)です。

原子番号26の鉄から92番のウランまでの元素の約半分は、超新星爆発がつくりだす非常に高温・高密度の環境下で、非常に中性子過剰な原子核を経由して作られたと考えられています。この鉄からウランにいたる元素の合成過程は、その特徴から専門的には"rプロセス"(rapid neutron-capture process=速い中性子捕獲過程)と呼ばれています。しかし、人類はこのような中性子過剰核種をまだ実験的に合成したことはないため、さらには超新星爆発においてこのような中性子過剰核種がつくられたという直接的な証拠は天体観測からまだ何も得られていないため、決定的なことは何もわかっていないというのが現状です。

理化学研究所で建設中の次世代加速器施設『RIビームファクトリー』の使命のひとつは、このrプロセス元素合成で生成されると考えられている、非常に中性子過剰で不安定な核種について、質量・寿命といった原子核の基本的な性質や核反応機構を世界で初めて実験的に調べ、『元素の起源』の解明に貢献し、もって人類の知見を広げることです。『RIBF宇宙核プロジェクト』では、「rプロセスでできる核種が宇宙のどこで、どのように創られ地球上に至ったのか」という人類が抱えている大きな謎に対し、原子核・宇宙・隕石・加速器などの専門家が数多く協力しあい、ユニークなアプローチを展開しています。

研究全体の俯瞰図:既存の分野の枠組みをこえ、総合科学的な手法でアプローチします。

rプロセス研究の歴史とその重要性について

1957年に出版されたBurbidge, Burbidge, Fowler, Hoyleによる記念碑的論文"Synthesis of the Elements in Stars"では、すべての元素の合成を9つの物理プロセスで説明しようと試みました。そのひとつがrプロセスで、rプロセスという名前は彼女・彼らがつけました。以来、50年近く経過しましたが、他の元素合成過程は理解がすすんだのに比べ、rプロセス元素合成過程は、どこでどのように起きているかという基本的なことがまだはっきりしていません。

酸素やカルシウムなどの元素とならび、rプロセスで創られる鉄からウランまでの元素には、イオウやセレン、モリブデンなど、我々が生きていくために必須な生体微量元素とよばれる元素が何種類も含まれていることがわかってきています。『元素の起源』を探究することは、とりもなおさず、「我々がどこから来たのか?」という人類にとって永遠の命題を探求することでもあるのです。

最近の米国ナショナル科学アカデミーの答申、またそれが簡潔にまとめられているDiscover誌(2002年2月号)の特集"The 11 Greatest Unanswered Questions of Physics"では、まだ解かれていない物理学上の大きな11の謎のひとつ(従って今後の研究推進が強く望まれるテーマ)として、「鉄からウランまでの元素はどうやって生まれたのか?」 という「謎」が第3番目に掲げられています。

宇宙からの核ガンマ線を捉えrプロセス元素合成の<現場>をさぐる

上記の研究全体の俯瞰図では、rプロセス元素合成が「超新星爆発」で起きることを前提としています(超新星爆発については、上の「環境:現実的な超新星爆発モデル」の箇所を参照して下さい)。しかし、上に述べたように、rプロセス元素合成が宇宙のどんな天体現象に伴い起きてきたのかということは、実はまだわかっていません。超新星爆発はrプロセス元素合成を引き起こす天体現象の第一候補ですが、これは天文観測から確かめられねばなりません。RIBF宇宙核プロジェクトでは、理化学研究所・牧島宇宙放射線研究室やJAXA(宇宙航空研究開発機構)などX線天文学分野の方々と協力し、近い将来に打ち上げ予定の日本のX線-γ線天文衛星に搭載される観測機器を用いて、爆発で生成された不安定なrプロセス核種が崩壊する際に放出する特徴的な核ガンマ線を超新星爆発や超新星の残骸から捉え、rプロセス元素合成が宇宙で起きている<現場>を特定しようとしています。

超新星爆発数値流体シミュレーション

超新星爆発とは:『遅延爆発シナリオ』

これまでにわかっている超新星爆発のシナリオでは、太陽の10倍以上の質量をもつ星の進化の最終段階で、中心の鉄のコアが、鉄の光分解や電子捕獲のために不安定となって重力崩壊が始まり、コアが収縮しはじめます。やがてコアの中心部の密度が核子と核子が重なり合う寸前の『核密度』に達すると、これ以上は収縮することができないため、急激な衝撃とともに中心部の収縮が停止することになります。この時、『衝撃波』が発生し、星の外に向かって伝搬していきます。しかしその衝撃波は弱く、中心に生まれた『原始中性子星』の上方(中心から約150-200km)でいったん停滞してしまいます。この後、原始中性子星から放射されるニュートリノによって衝撃波後方の物質が加熱され、その結果、衝撃波はエネルギーを取り戻し再び広がり始めます。衝撃波が崩壊しつづけている親星の鉄のコアの重力ポテンシャルをふりきって、コアの外へ伝搬することができれば、爆発は成功します。

以上がいわゆる『遅延爆発シナリオ』で、SN1987Aとよばれる1987年に大マゼラン星雲で観測された超新星爆発の観測から確かめられました。

超新星爆発の研究の現状

重力崩壊型超新星爆発については、これまで数多くの研究がなされてきたにも関わらず、未だ爆発を計算機のなかで再現することに成功したグループはありません。これまでのところ、球対称を仮定した1次元計算では、最新のニュートリノ・核子間相互作用や核物質の状態方程式などを用いて、ニュートリノ輸送を相対論的に扱っても、爆発エネルギーが不足して爆発を再現できないということが示されており、多次元(非球対称)数値シミュレーションが重要視されるようになっています。そこで本研究では、精密な流体力学計算コードを用いた重力崩壊型超新星爆発の多次元数値シミュレーションを行っています。国際的にも、いくつかのグループが多次元数値シミュレーションを行っています。

球対称性を仮定しない計算では、対流などの多次元効果により球対称爆発に比べてニュートリノの輝度が増加することが期待されます。しかし現状では、このような多次元数値シミュレーションを行っても、最終的には発生した衝撃波がへたってしまい、うまく爆発しないという結果となっています。

研究の内容

我々は、停滞した衝撃波が原始中性子星からの『非等方』ニュートリノ輻射によって復活し、爆発エネルギーが増加して最終的に爆発を引き起こすことができる、というシナリオに基づいて、研究を行っています。実際に、親星の回転などの効果によりニュートリノフラックスが非等方性をもつと仮定して2次元(軸対称)シミュレーションを行うと、爆発エネルギーが増加することが示されています(Shimizu et al. 2001、Madokoro et al. 2003など)。また、様々なタイプのニュートリノ輻射の非等方性を仮定して系統的な研究を行ったところ、ニュートリノフラックスが大局的な非等方性を持つ場合(プロレート= 葉巻型爆発)に爆発エネルギーが最も大きくなることがわかりました(Madokoro et al. 2004)。1987年に大マゼラン星雲で観測された超新星SN1987Aの残骸は、実際に軸比が約2:1の葉巻型であることが偏光観測によって調べられており、軸比も含めて我々のシミュレーションからの示唆と一致し、関連を示唆するものとして注目されます。

次の段階として、我々はこれまで考慮していなかった原始中性子星の内部領域をモデルスペースに組み込み、重力崩壊初期段階からの厳密なシミュレーションを行っています。これにより、これまでの計算では仮定していたニュートリノ輻射の非等方性を、実際の重力崩壊シミュレーションの結果として得ることができます。このようにして、「重力崩壊型超新星爆発は、"非等方な"ニュートリノ輻射が重要な役割を担って引き起こされているのではないか」という我々の主張を、一貫した、より厳密な多次元シミュレーションを用いて検証しようとしています。またこれら多次元シミュレーションの結果は、元素合成を引き起こす『環境』として、大規模核反応ネットワーク計算のインプットとして用いられます。

エントロピーの進化の様子

球対称爆発とプロレート(葉巻)型爆発それぞれについて、(遅延爆発シナリオにおける)衝撃波の停滞後、1secたった時点でのエントロピー分布。

■動画で見る

爆発エネルギーの進化

爆発エネルギーの時間発展を表した図。赤線が葉巻型(回転軸方向のニュートリノのフラックス強度が赤道面に比べて15%だけ大きい場合)、青線は他はまったく同じ条件における球対称爆発を示す。ニュートリノの初期温度は5.3MeVで、500msで減衰していくとした場合のモデルシミュレーション。

共同研究メンバー

 間所秀樹、清水鉄也、望月優子(理研)

南極氷床から超新星の爆発率を探る

研究説明

▲氷床コア(極地研低温室にて撮影。直径10cmほどです。)

本研究は、過去の超新星爆発の歴史を調べるために、国立極地研究所(極地研)が保有する南極の氷床コアを分析して、過去2000年間つまり人類の有史上で知られているすべての銀河系内超新星に同期して含有濃度が増加する成分プローブがあるかどうかを検証します。相関が確認されれば、極地研が現在掘削中の3000mの氷床コアを利用して、過去100万年にわたる超新星の痕跡を探査し、我々の天の川銀河における超新星爆発の出現頻度を一挙に推定することが最終的な目標です。

我々の銀河系内で超新星が平均して何年に一発起きているかという爆発頻度は、現在2桁ほどの不定性があり、はっきりとはわかっていません[最近のcompilationとして、例えばPavidow&Fields, Astrophys. J. 558 (2001), 63のFig. 1など]。一方、我々の世界を構築している『元素の組成』は、主として始源的な隕石の化学分析から求められていますが、これは他の銀河系ではなくまさに我々の天の川銀河の(正確には太陽系形成時の)元素組成を表しているものです。もし我々の天の川銀河の超新星爆発率を決めることができれば、現在は不明確な、一発の超新星爆発で生み出される元素の絶対量を具体的に議論することができるようになります。つまり、『超新星爆発率』とは、熱・統計力学でいう『ボルツマン定数』のように、いわば原子核の"ミクロ"と宇宙の"マクロ"を結びつける"定数"のようなものなのです。これがわかれば、理化学研究所で建設中の次世代加速器施設『RIビームファクトリー』で新しく得られるであろう、中性子過剰核の基本的性質など、原子核のミクロを追究する研究とあわせて、さらに『元素の起源』の解明に向け一歩前進するためのブレイクスルーとなり得ます。また、他の方法では見積もることが難しいため、銀河の進化の研究そのものに与えるインパクトもはかりしれません。

本研究では、氷床コアの成分分析と同時に、超新星爆発や太陽活動などの諸天体現象がコア成分に影響する物理・化学過程についても追究します。氷床コアは地球の過去の気候変動を探る目的のために掘削がなされてきましたが、本研究はこの氷床が天文学・宇宙物理学にとっても宝の山に等しいという事実に気づいた全く新しい分野横断的な研究で、理研・極地研・信州大学の共同研究です。

共同研究メンバー(2005.8)

望月優子、高橋和也、馬場彩、牧島一夫、矢野安重(理化学研究所)、本山秀明、五十嵐誠、神山孝吉(国立極地研究所)、鈴木啓助(信州大学理学部)

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研究よもやま話

 まったく違う分野の人々が初めて一緒に共同研究をはじめたので、思いがけず楽しい発見があります。

その1)この研究は2004年4月から正式にスタートしました。その2,3ヶ月後、実は、理化学研究所の古い研究本館の建物の地下にもひっそりと-20℃の低温室が存在していることを発見しました。使っている人はあまり見あたりませんでした。何故低温室なんてあるのだろうと思っていたところ、極地研(前)所長の渡邊興亜先生のインタビュー記事を読んでいて、日本の南極観測隊の初期の頃(1960年)に理化学研究所の若い研究員が参加していたことを知りました。また昔の理研をよくご存じの方から、南極における宇宙線観測研究を主とする研究室が理研にあったことを教えて頂きました。

その2)そして、なんと南極とはまったく縁がないと思っていた理研の記念史資料室に南極関連の資料があり、それをまとめたものが過去の理研ニュース(2001年7月号)の記事になっていることが1年たってから偶然わかりました(2005/07/11)。

その3)さらにこれも偶然、高校の物理の恩師がOB報に書いた記事から、日本で初めて南極越冬隊に参加した女性研究者(のうちのひとり)の方と望月とは、同じ高校の出身ということが判明しました。神奈川県立横浜翠嵐高校といいます。学年が違っていたので存じ上げず、残念ながらまだご本人にお会いしたことはありません。

その4)氷床コアは、いったん溶かすと劣化してしまうので、すぐ分析しなければなりません。使われていなかった理研の低温室は、今後、極地研で処理された氷床サンプルの保存→理研での分析という連携プレイで活躍しそうです。

一般共同研究#44『氷床コアからさぐる超新星の痕跡と太陽活動の履歴』(H16~H18) 研究代表者:望月優子

超新星残骸のx,r線観測

研究説明

私たちを取り巻き、この世界を形作っている元素の大半は、超新星爆発により生成されたと考えられています。理論的には、さまざまな超新星爆発のメカニズムが提案されており、どのような核種が、どこでどのくらい生成されるかについて研究が進んでいます。しかし観測的には、超新星爆発における核種の生成について定量的なことはほとんどわかっていないのが現状です。

重力崩壊型の超新星爆発によって合成される核種のうち、内部に落ち込む領域と外部にはじき飛ばされる領域の境界 (いわゆるマスカット) で生成されるものは、超新星爆発や元素合成のメカニズムを直接伝えてくれる強力なプローブとなります。このような物質を調べるには、新しく合成された核種(放射性元素)の崩壊に伴う特有の核ガンマ線を、良い精度で観測することが重要です。しかし、その観測はきわめて難しく、COMPTONガンマ線天文台衛星やINTEGRAL衛星による観測など、いくつか例はあるものの、十分な感度を有する検出器はいまだに存在していません。

▲「すざく」衛星

そこで私たちは、核ガンマ線を観測する代わりに、軌道電子捕獲(orbital-electron capture)による原子核ベータ崩壊の際に発生するX線をとらえて超新星で合成された核種を観測することを考案しました(観測プロポーザル受理2004)。

マスカット付近で合成される核種には、44Ti(チタン)、56Ni(ニッケル)など、軌道電子捕獲ベータ崩壊様式をとる放射性同位体で、しかも観測的・理論的にも重要な核種がいくつかあります。

2005年7月に打ち上がったばかりのX線天文衛星「すざく」は、1keVから10keVのエネルギー帯のX線に世界最高の感度を持ち、この目的の観測には最適です*)。このように、X線を用いて従来の「元素」の観測から「核種」の観測へと、世界を広げていきます。そして実際に観測された超新星残骸中の56Ni、59Ni、44Ti等の核種の合成量と理論モデルの結果とを比較し、爆発における非球対称の度合いや、マスカットの位置に制限をつけ、超新星爆発モデルをより信頼に足るものへと補強していきます。

*)搭載された3つのうちのひとつの装置の故障により、残念ながら軌道電子ベータ捕獲で崩壊する放射性核種の観測はできなくなったが、次世代のX線天文衛星にはさらに改良を加えた装置が搭載される予定であり、それに乞期待。核γ線研究チームでは「すざく」衛星の別の装置を使って、違うアイデアに基づいて元素の観測から同様に超新星メカニズムに制限をつけていくことを目下、準備・推進中です。

さらにその先へ:rプロセス元素合成を起こす天体現象とは?

超新星爆発はrプロセス元素合成を起こしている第一の候補ですが、まだ観測から確かめられたわけではありません。我々はさらに上述のX線による核種の観測研究を発展させ、rプロセスでしか生じない重い不安定な核種が崩壊する際に放出する特徴的なエネルギーのγ線を、超新星残骸や、将来起きるであろう超新星爆発から捉え、rプロセス元素合成が宇宙で起きている<現場>を特定しようとしています。核γ線観測からrプロセス天体現象を特定しようというこの試みは、2011年に打ち上げ予定の日本のγ線天文衛星「NeXT」に搭載されるγ線検出器によって初めて可能となる見通しです。

研究成果

プロジェクト全体:

超新星爆発数値流体シミュレーション:

超新星残骸のX、γ線観測:

大規模核反応ネットワークとRIBF実験: