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* The content of this talk has been invited to be an article in Nature (planned to be released in 2021)
アカデミアにおけるパワハラ・セクハラ対策のページ
相談員としての研修を受け、所属機関や所属学会、日本学術会議(天文研連)で大学や研究機関におけるパワハラ・セクハラ対策の相談を受け、解決に向けて携わってきました。具体的には、現時点では、日本天文学会で2010年に望月が声をかけてたちあげた「女性天文研究者の会」、女性で二人目の日本天文学会副会長として受けた相談や人事的助言、学会コンプライアンス委員としての活動、研究者個人としての活動が中心です。IAU Women in AstronomyのExecutive Comittee Member、JAICOWS、NWEC、ハラスメント関連の書籍・講座などで継続して学んでいます。日本物理学会では、男女にかかわらず研究環境の向上のため、学会誌への投書を読んだことをきっかけに周囲に声がけして研究者有志、学会事務局の方々とともに、2000年より学会託児室を立ち上げました。
2024年1月には日本BPW連合会ダイバーシティ・エデュケーター資格(DE)の認定を受けました。この資格は、組織のハラスメント問題の対応や予防を含め、ダイバーシティを推進して組織を活性化させるために必要な知識やスキルを、グローバルスタンダードで身につけた指導者としての認定資格です。
このページでは、このような経験から学んだ対策や留意点をまとめていきます。
ハラスメントとは、セクシュアルハラスメント、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント、パワーハラスメント、アカデミックハラスメント及びその他のハラスメントを言う(厚生労働省、国立研究開発法人のハラスメント防止ハンドブックより)。
1)セクシュアルハラスメント
他の学生、同僚、職員等の就業環境を不快なものとし、能力の発揮に重大な悪影響を与えるなど、本人等が学業、研究、仕事をする上で看過できない支障を生ずる言動もしくはその環境等について不利益を与えることを示唆する性的言動。
2)パワーハラスメント
立場(職務)上の地位、権限、情報等なんらかの優位性を発揮出来る力を用いて、本来の学業、研究、業務の範疇を超えて、継続的に人格及び尊厳を侵害し、環境を悪化させ、あるいは雇用の不安を与える言動を言う。ただし、行為の悪質性、結果の重大性等によっては継続的でない言動についてもハラスメントとなることがある。
3)アカデミックハラスメント
研究の場において継続的に行われる研究妨害、暴言、指導の放棄等の地位や権限を利用した嫌がらせ及び地位や権限にかかわらず他の者を誹謗中傷する行為等人格及び尊厳を侵害する言動を言う。ただし、行為の悪質性、結果の重大性等によっては継続的でない言動についてもハラスメントとなることがある。
4)妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント
下記のいずれかに該当する行為により環境を悪化させ、本人等が学業、研究、仕事をする上で看過できない支障を生ずる言動を指す。
2-1 | 本人等が妊娠、出産、育児、介護に関する制度等の利用請求を行うことや、制度等を利用したことにより行われる嫌がらせ等の言動で下記の2-1-1から2-1-4のいずれかに該当する言動を行うこと。 |
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2-1-1 | 本人等に対し、立場(職務)上の地位、権限により優位性を有する者が退学、解雇、その他不利益な取り扱いを示唆すること。 |
2-1-2 | 本人等に対し、立場(職務)上の地位、権限により優位性を有する者が制度等の利用の請求等または制度等の利用を阻害すること。 |
2-1-3 | 本人等に対し、立場(職務)上の地位、権限により優位性を有する者以外の者が繰り返しまたは継続的に制度上の利用の請求等または制度等の利用を阻害すること。ただし、本人等が意に反することを伝えているにもかかわらず、さらに制度等の利用の請求等やまたは制度等の利用を阻害する言動が行われる場合を含み、この場合は、さらに繰り返しまたは継続的であることを要しない。 |
2-1-4 | 本人等に対し、制度等を利用したことにより、繰り返しまたは継続的に嫌がらせ等の言動を行うこと。ただし、本人等が意に反することを伝えているにもかかわらず、さらに制度等の利用の請求等または制度等の利用を阻害する言動が行われる場合を含み、この場合は、さらに繰り返しまたは継続的であることを要しない。 |
2-2 | 本人等が妊娠または出産したことにより行われる嫌がらせ等の言動で、下記の2-2-1、2-2-2に該当する行為を行うこと。 |
2-2-2 | 本人等に対し、繰り返しまたは継続的に嫌がらせ等の言動を行うこと。ただし、本人等が意に反することを伝えているにもかかわらず、さらに制度等の利用の請求等または制度等の利用を阻害する言動が行われる場合を含み、この場合は、さらに繰り返しまたは継続的であることを要しない。 |
5)その他のハラスメント
上記1〜4に該当しない繰り返し行う精神的ないじめや嫌がらせ、差別的な言動により人格及び尊厳を侵害し、環境を悪化させ、研究、職務遂行を阻害する言動を言う。ただし、行為の悪質性、結果の重大性等によっては継続的でない言動についてもハラスメントとなることがある。
厚生労働省は「職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて精神的・身体的苦痛を与える、または職場環境を悪化させる行為」と定義。暴行や脅迫、仲間外しなどの行為のほか、能力を超えたり、程度の低い業務の強制、私的なことへの過度な立ち入りなど、具体的に六つに類型化した。「上司から部下」だけでなく、「同僚間」や「部下から上司」にも起こりうるとした。
解決に向けて大切なこと
ハラスメントは、自分さえ我慢していればと黙っていると被害が拡大したり、自身の心身に不調が現れたりする場合も多いです。一人で悩まずに早めに「適切な」人や相談室、カウンセラーなどに相談なさってください。
- 加害者からの「謝罪」の大切さ -- 個人の尊厳の回復
- ハラスメントを受けてから心身の回復へ向けての情報
(1) | 「過度なストレスから心と身体をしっかり守りよい研究を〜知らないと損する10の知恵〜」 |
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(2) | 「アカデミック世界のマイノリティ:勇気を持って流れを変えよう」江口ひより(望月優子)著 |
(3) |
- 「被害者保護」は本当か?
- 「影響を受けた」と思っている側で大切なこと
- 「自分を守るのは自分」という意識
- 自分を傷つけられるのは自分だけ、と認識する
- 「被害者」を「影響を受けている者」と言い換える
- 「被害者意識」にからめとられない
- 「毒」をはかない
- 「理解者」をつくる
- 大きなダメージを受けたら自分の気持ちは揺らぐのがふつう、と知っておく
- 行き過ぎない、いい気にならない
- 強いダメージを受けた場合、「集中力」の回復には時間がかかる
- 苦しい時期の「研究」において気をつけたいこと
- 「孤独」あるいは「孤立(させられること)」が健康によくないことを知る
- ストレスが物忘れや脳萎縮につながる可能性があるという研究を知る 例1
- ストレスを「味方」につける --「体の反応は私を助けてくれている」 TED
- 睡眠の大切さ -- 睡眠導入剤の服用で留意すべきこと
- 以前、望月に「サバティカルで海外に滞在したらストレスがなくなって嬉しいことに毛が生えたんだよ」とおっしゃった教授がおられた(男性)。理由が科学的に解明された。(2021/4/16)
・ストレスは発毛を阻害する Nature, 592, 2021 リンク
・リラックスすると毛がより多く生える/Relax to grow more hair (上の論文のNEWS & VIEWS解説記事
)リンク 「日本語要約:今回、マウスにおいて、ストレスホルモンが皮膚細胞を通してシグナルを伝達し、毛包幹細胞の活性化を抑制することが見いだされた。シグナル伝達を妨げると発毛が促進される。ストレスを抱えている人は気を付けましょう。」 - 「心から血が流れている」と感じた時
- 大自然の癒しの力
- 心身のコントロールができるように呼吸法を学ぶ
- 本格復帰へ、「癒し」の時間と量のコントロール
- 精神的回復の過程を大事にし、100だった力を120にも130にもする
- (苦しい時期がある程度すぎたら)頑(かたく)なにならない
- 「奥の手」(個人に依る)
- 「時間は味方」-「心の傷」は必ず癒される
- 勇気は他者に感染する
- 相談とアドバイスのページ
- どうすれば安全安心 職場のパワハラから身を守るには 相手の言動、日時を記録
- 「九の慈悲に一つの憤怒」の実践はできるか
- 「他者を助けることで自らも助けられていること」について
- #MeToo(わたしも)、#WeToo(わたしたちだって)、#WithYou(あなたとともに)の精神で
- 大きなダメージを受けたら相談者の気持ちは揺らぐのがふつう、と知っておく
- 「あなたは決して一人ではない」と伝えることの大切さ
- 問題が落ち着いた研究者から他の方、特に少し下の世代の研究者や大学院生に伝えたいこと
ケース1:研究職場の上司に好意を持たれセクハラと二次被害を受けてわかったこと
ケース2:学界において科研費の採択辞退を強要された複数のケースとその考察 - 相談を受けて困る時:自分ではサポートしきれないと判断せざるを得ないケースについて雑感
役に立つ資料
- (Nature日本語記事リード文そのまま)全米科学アカデミー(NAS)のセクハラ問題に関する行動規範の導入から2年、今回これが初めて適用され、天文学者Geoff Marcyが除名に。nature2021年5月27日
- 女性研究者採用に優遇策 下駄はかせ批判に名古屋大は 朝日新聞(有料会員記事)2021年3月25日
- A Full Nature Astronomy paper "Closing the gender gap in the Australian astronomy workforce" by Prof. Lisa Kewley2021.4.19
- Gender parity in astronomy 'impossible without intervention' for the Kewley model above
- 「我慢」し続けると、ハラスメント被害も心理学でいう「馴化(じゅんか)」の恐れがある毎日新聞2021年4月10日
- 知的な女性を否定する人ほど「数学は男性的」のバイアス 朝日新聞(有料会員記事)2021年4月10日
- 女性少数の世界でセクハラ その時「意識を覚醒させる」朝日新聞(有料会員記事)2021年4月4日
- 上野千鶴子氏の東大学部入学式の祝辞 東大公式サイト朝日新聞(一部限定記事)2019年4月16日
- 北大学長にパワハラの疑い 調査委が聞き取り 産経新聞 2019年4月6日
- 早大教授がセクハラ・パワハラで退職願提出 朝日新聞プレジデントオンライン2018年6月20日
- 女性研究者の活躍を阻む「無意識のバイアス」鳥居啓子 ワシントン大学卓越教授 2018年6月18日
- 女性科学者はどんな目にあっているのか<上> <下>
天文学者として生き残ったわたしの#Me Too 加藤万里子 慶應義塾大学教授 2018年7月9日 - CERN scientist:'Physics built by men - not by invitation'
- Nature News:ドイツのマックス・プランク宇宙物理学研究所でパワーハラスメント疑惑
Nature 559, 159-160 (2018), doi: 10.1038/d41586-018-05634-8 - Nature Editorial:ドイツの著明な研究所でのパワハラ疑惑は、若手研究者を守るもっと良いシステムが必要なことを示唆 Nature 559, 151(2018), doi: 10.1038/d41586-018-05683-z
- 「Me Too」セクハラが破壊する女性の心と体(毎日新聞 医療プレミア)2017年12月6日
- ユネスコ『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』から日本の性教育を考える
SHCNNニューズレター第64号 2018.5.29 6-7より抜粋 - 「セクシュアル・ハラスメント防止方針」における「性的マイノリティに対するセクシュアル・ハラスメントへの対応義務」の明文化 SHCNNニューズレター第63号 2017.11.27 9-11より抜粋
- Does Your Institution Foster a Culture of Sexual Harassment?(by EOS)
A new report outlines how academic institutions create a culture in which sexual harassment can run rampant. Here are some questions, drawn from the report, to help gauge your institution's culture.
- National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine: Sexual Harassment of Women: Climate, Culture, and Consequences in Academic Sciences, Engineering, and Medicine
Free PDF download available.
- Japan Timesの興味深い記事
"How scientists succumb to corruption and cook results" 2018.5.29
- The award rejection that shook astronomy
Margaret Burbidge's 1971 decision to decline the Annie Jump Cannon Award forced the astronomy community to reconsider the prize and examine discrimination against women in the field.
データ
- 日本と理研の女性研究者の割合 (「理研百年史(2018)」データより)
- 日本天文学会の女性研究者比率
- ハラスメントに関する学会アンケートの実施例 地球惑星科学連合(JpGU)
有用リンク
- 女性科学研究者の環境改善に関する懇談会
(Japanese Association for the Improvement of Conditions of Women Scientists、略称JAICOWS)
(日本学術会議の会員・連携会員(現職および経験者)の女性で構成される団体。多くの女性が科学研究に参加することにより科学の一層の発展が期待されるとの認識を深め、女性科学研究者の人権を守り、女性研究者の研究環境がより一層改善されることを願って発足された。) - キャンパス・セクシュアル・ハラスメント・全国ネットワーク
(教育の場におけるセクシュアル・ハラスメント問題の解決に寄与するために、教育機関、学術諸団体、各種運動体、司法関係者、カウンセリング機関などとの連携を通じて、情報交換、意識啓発、問題解決のための諸活動、被害者の支援などを行うネットワーク) - NPOアカデミック・ハラスメントをなくすネットワーク(NAAH)
- 日本天文学会のコンプライアンス委員会
役に立つ参考書
- 『それ、パワハラです 何がアウトで、何がセーフか』、笹山尚人著、光文社新書(2012、定価740円)
- 『職場のハラスメント なぜ起こり、どう対処すべきか』、大和田敢太著、中公新書(2018、定価860円)
- 『KOKKO 第23号』-「パワーハラスメントとは何か」金子雅臣著、日本国家公務員労働組合連合会(2017、定価500円)