EURICA
2012年から重イオン加速器施設「RIビームファクトリー(RIBF)」に欧州ガンマ線検出器委員会が管理する大球形ゲルマニウム半導体検出器を組み合わせた
世界最高水準の核分光研究「EURICA(ユーリカ)」プロジェクトが始動しました。これまでに100日をかけて、約380種もの放射性同位元素のデータ収集に成功しました。
EURICA国際共同研究グループ(共同研究者:約230名、19カ国、プロジェクトマネージャー:西村俊二)は、原子核が崩壊する様子をしらべることにより、希少な
原子核の魔法数、核異性体、変形、重元素合成に関する新たな知見を次々と明らかにしています(発表論文:18本)。
2016年なつには全ての実験を完了し、主要装置のゲルマニウム検出器はドイツ・GSI研究所に返却します。今後、収集した大量のデータを解析することにより
多くの研究成果が期待されます。
EURICA実験装置の全体像
● 魔法数:非常に重く中性子を多く含むパラジウム(126,128Pd: 陽子数 Z = 46)、カドミウム(129Cd: Z = 48)、 インジウム(129,131In: Z = 49)、スズ(136,138Sn: Z = 50)の励起状態を調べることに成功しました。その結果、パラジウムにおいて中性子数 N = 82の 魔法数は健在であることが判りました。しかし、未知の非常に中性子過剰なストロンチウム(120Sr: Z = 38)、ジルコニウム(122Zr: Z = 40)において魔法数が 消失する可能性を見出しました。この直接的検証には、さらに強力な加速器施設が必要となるため、少なくとも10年以上待つことになると思います。 また、陽子魔法数Z = 50を記述する理論計算に重要な制限を与えることとなりました。重いコバルト、ニッケル、銅、亜鉛が崩壊するのに要する時間(半減期)を測定することに成功しました。 その結果、78Ni(Z = 28, N = 50)において2重魔法数を示唆する最初の結果を得ることに成功しました。
● 変形、核構造:非常に多くの中性子を含む鉄(68-70Fe: Z = 26)、コバルト(76Co: Z = 27)、ルテニウム(116,118Ru: Z = 46)、 アンチモン(136,140Sb: Z = 51)、テルル(138Te: Z = 52)、サマリウム(164Sm: Z = 62)、ガドリニウム(166Gd: Z = 64)の励起状態を調べることに成功しました。 高速ガンマ線検出器(LaBr3(Ce))ジルコニウム(104,106Zr: Z = 40)の励起状態から放出されるガンマ線の寿命測定に成功し、ジルコニウムやサマリウム、ガドリニウムにおける変形魔法数の証拠を得ることに成功シました。また、 マンガン(68-70Mn: Z = 25)の寿命と遅発中性子放出確率の測定に成功し、変形領域が非常に中性子過剰な鉄まで広がっていることが明らかにしました。
偶偶核の第1励起エネルギーと魔法数・変形子
● 重元素合成の鍵を握る中性子過剰核110個(ルビジウムからスズ: Z = 37 - 50)の半減期測定に成功しました。 測定結果を重元素合成計算に取り込んだ結果、超新星爆発における高速中性子捕獲と光分解反応の平衡環境シナリオと矛盾しない結果を得ました。
青丸は、EURICAで半減期を測定し不安定核。