RIBF施設共用促進事業 高エネルギー重イオン・RIビーム応用研究の推進

イオンビーム/RIビームの特徴

イオンビームについて


原子からいくつかの電子がはぎ取られて、電気を帯びたものが「イオン」で、 特にヘリウムより重い元素のイオンは「重イオン」と呼ばれます。 電気を帯びた粒子は、電場・磁場により加速・減速・運動方向の変更、速度の選別など、 さまざまなコントロールができるので、最新のイオン源・加速器技術を用いて、 放電現象で作った重イオンを大きな速度まで加速し、速度と方向がそろったビームにすることができます。 高速の重イオンビームは人工放射線の一種ですが、電子線やガンマ線、陽子やヘリウムのような軽イオンビームなど 他の放射線にはない特徴があり、多くの研究施設でその利用が行われています。
理研仁科センターのRIビームファクトリー(RIBF)では、強力な重イオン源と1台の線型加速器、 5台のサイクロトロンで、重イオンビームを最大で光速度の7割近くまで加速できます。 これを用いて、さまざまな実験が行われています。
RIBFの重イオンビームの特徴の1つは種類が多いことで、 水素からウランまで天然に存在するすべての元素で重イオンビームをつくることができます。 イオンの種類と速度により、照射した物質に対する作用が異なるので、利用目的に応じて最適なイオンを選ぶことができます。

イオンビームと物質の相互作用


高速のイオンを物質中に入射すると、イオンは、ほぼ直進しながらだんだん速度を落として最後には停止します。 物質中に入射してから停止するまでの距離、すなわち物質中の飛程は、イオンの種類、 入射速度と物質の種類によってほぼ決まるので、速度のそろった重イオンビームを物質中に打ち込むと、どのイオンも大体同じ深さで止まります。 理研のリングサイクロトロンの重イオンビームは速度が大きいので透過性が高く、 たとえば光速の半分程度まで加速した炭素イオンは、金属アルミニウムで約2cmの深さまで入ります。 したがって、重イオンビームの種類と速度を適当に選び、ビーム強度と照射時間を適当に設定して物質を照射すれば、 その内部の所定の場所に所定の数の不純物元素を注入することが可能です。 イオンに大きな速度を与えて物質に物理的に叩き込むので、物質が固体でも液体でも生体でも、 その性質によらず確実に所定の深さに注入することが可能です。
重イオンが高速で物質中に入ってから止まるまでの間、イオンが通過する経路に近い原子にエネルギーを与えて電離します。 与えるエネルギーの密度は、イオンの原子番号が大きいほど大きく、またイオンが停止する直前で最大になります。 イオンが原子を電離するのは、イオンの経路に沿った半径数ナノメートルの柱状の領域に限られるので、 大きな原子番号を持つ重イオンビームを物質中に打ち込むと、物質内部にナノスケールで物理的・化学的な変化を引き起こすことができます。
重イオンビームは、原子核物理のような基礎的研究から、生物、医療、工業などへの利用を目指す応用的研究、 さらには宇宙物理学、地質学、考古学などさまざまな研究に利用されています。 このように広く利用される理由としては、その「多様性」「操作性の良さ」「エネルギー密度の高さ」があげられます。 これらの特性が組み合わされて利用され、広い分野で注目されているのです。

RIについて


RIとは Radioisotopeの略で、放射性同位体すなわち不安定な原子核を持つ同位体のことです。 原子核は陽子と中性子でできていますが、陽子の数でそれが属する元素の種類が、さらに中性子の数でその原子核の安定性がきまります。 陽子数と中性子の組み合わせで決まる原子核の種類を核種といいます。 同じ元素でも中性子の数により異なる核種があり、同位体と呼ばれます。 天然に存在する原子のほとんどはその中心に安定な核種の原子核を持ちますが、このほかに不安定な核種もあります。 このような不安定な核種をRIと呼びます。RIは自発的に他の核種に変わり(壊変)、そのとき多くの場合放射線を出します。 同じ元素に属するRIの原子と安定な核種の原子は化学的性質がまったく同じですが、RIは壊変に伴って放射線を出すので、 それを検出することで存在を知ることができます。
たとえば、天然にある炭素原子のうち約99%はその中心に炭素12の原子核を、また約1%は炭素13の原子核を持ちます。 どちらの原子核も安定です。炭素にはこのほかに10種類以上のRIがあります。 たとえば炭素14は、約5700年の半減期でベータ線を放出して窒素14に壊変するので、古代の遺物などの年代測定に利用されます。 一方炭素11は半減期約20分でホウ素11に壊変する際に陽電子を放出するので、医療分野のPET診断に利用されます。 他の元素にも多様なRIが存在し、多くの分野の基礎研究だけでなく、医療分野で診断や治療に、さらに産業界でも広く利用されています。

RIビームについて


RIの中には天然に存在するものもありますが、大部分は原子核反応を用いて人工的に作り出す必要があります。 このRIの製造に関して、理研のRIBFにはきわめてユニークな施設があります。 通常イオンビームでRIを製造する場合、製造するRIの元となる適当な安定核種でできた物質を標的として、 陽子などの軽イオンビームを照射し、核反応で標的の安定核種からRIに変換し、後で標的を化学的に処理してRIを分離します。 理研のRIBFではこれを逆にして、RIの元となる核種を大強度の重イオンビームにして光速度の半分程度に加速して、 適当な固体薄板の標的を通過させます。 大部分のイオンはそのまま通過しますが、一部のイオンの原子核は標的中の原子核と衝突して核反応で別の核種になり、 ほとんど速度を変えないで標的から出てきます。 標的を通過したビームには核反応で生じたさまざまな核種が入り混じっているので、電磁石などを用いて目的とする単一核種のRIを、 速度と方向のほぼそろったビーム(RIビーム)として選別して利用します。 RIBFでは、ほかの方法では作れないようなRI核種を作ることが可能で、半減期が1ミリ秒以下の短寿命核種でも分離することができます。 またRIビームの速度が大きいので、物質中に数mm程度の深さまで打ち込むことができます。
RIビームは物質中で普通のイオンビームと同様に減速され、最後には停止しますが、 その後、壊変に伴って放射線を放出します。放出される放射線がガンマ線の場合、物質を透過しやすいので外で容易に検出できるだけでなく、 そのエネルギーを測定すると放出核の核種がわかるので、さまざまな物質中に注入された元素の動きを追跡するのに用いることができます。

RIビーム